書籍「リタイア・シフト」発売記念として、ダイジェストをお届けする。今回は「企業と社会にとってリタイア・シフト時代とは何か」というテーマだ。特に時代の大きな変革に気づかない企業は、優秀で労働意欲も高いシニア人材を無為に手放し続け、企業の生産性を低下させ続けることになるだろう。図版はnotebookLMが作成しており、フォント化けなどがあることはご容赦を。
リタイア・シフトは今世紀すでに一度起きている。「60歳リタイアから65歳リタイア」へのリタイア・シフト、いわばば1.0のシフトである。しかしこのシフトは「低賃金・単純労働」で5年間「会社にいさせてあげる」という意味合いが会社の本音にあった。当時の60歳代は今ほど元気ではなかったし、企業も人手は足りていたからだ。当時は60歳前賃金から4割カットは当たり前。5割以上カットしていた企業も少なくなかったという。

ところが大きな社会変化が起きている。ひとつは社会的な人材不足である。団塊世代は毎年約270万人の出生者数があった。就職氷河期世代といわれた段階ジュニア世代で年200万人くらいだが、新卒世代が年100万人くらいと考えると、新卒だけに依存した人材確保では人手が不足するのは当然だ。

すでに「リタイア・シフト」の時代変化に気がついている企業は実は多い。65歳定年、あるいはそれ以上の年齢を定年とする会社、また定年制を廃した会社は合計するとすでに3割を超えた(AIの図はちょっとおかしいが、そこは本書をチェックいただきたい)。元気な企業は、人手不足の解決策としてシニア世代の高処遇に踏み切っている。そしてこの勢いは近年加速しており、5年後に5割となってもおかしくないほどの急速な伸びだ。また大企業の動きが遅く、中小企業のほうが先行していることも興味深い流れだ。「リタイア・シフト」は中小企業の現場ですでに起きているのだ。

60歳で他の会社に移るはずがないから、低処遇もかまわない、と会社が考えているならそれは愚計だ。転職市場の拡大はとうとうシニア世代に到達している。すでに50歳代の転職市場は成立しており、「こんな低処遇なら辞めて、別の会社に行くか」とシニア世代が考える時代がやってくるのだ。

「低処遇でも、シニア世代は労働意欲があるからこきつかえばよかろう」と会社が考えているなら、それも誤りだ。同一労働同一賃金の取り組みは強い縛りとなっており、「賃金は半減、業務内容は定年前と同等」ということは通用しない。もしそのやり方を続ければ、企業はほぼ100%裁判で負けることになるだろう。「給料を現役世代並みに出すから、業務も定年前と同様にこなしてほしい」と処遇しなければならない時代が来ているのだ。

「リタイア・シフト」は2020年代後半の今、わが国に現出するパラダイムシフトだが、いくつかの要素が絡み合って起きるものだ。企業は「リタイア・シフト」に対応していかなければならない。そうしなければ……有力な人材をただ空費し、成長のチャンスを見過ごすことになるはずだ。動くのはまさに今である。


